Sh 2-276(バーナードループ・散光星雲?・オリオン座)

Sh 2-276(バーナードループ・散光星雲?)
Pentax PDA50-135mmf2.8(60mm f4.5), Pentax K70(改造), ASNフィルター, ISO3200, 120s x 16=32分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 2022/01/07 21h58m, -6.0℃, 東御市・観測所 ↑N

オリオン座 Sh 2-276周辺 ファインディングチャート
Pentax PDA50-135mmf2.8(60mm f4.5), Pentax K70(改造), ASNフィルター, ISO3200, 120s x 16=32分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 2022/01/07 21h58m, -6.0℃, 東御市・観測所 ↑N

Sh 2-276(散光星雲?), 明るさ:– mag, 直径:1200′, 分類:SNR?, RA 05h 27m 28.1s DEC -03d 57m 55s (J2000.0)

Hαでの写真ではおなじみのバーナードループを遅まきながらK70のフィルター改造カメラで撮影してみました。Sh 2-276=バーナードループは、1889年にW. H. Pickering (Sheehan 1995) によって発見され、その後E. E. Barnard (1894) によって写真撮影されました。その明るい部分は、東側にある約14°の円弧で距離440 pc (O’Dell & Henney 2008) で長さは110 pcとされています。北の端は南の端に比べて約2倍明るく、そこが高密度であることを示しています。(参照:C. R. O’Dell 他 2011)
古い人間の私は、バーナードループはオリオン座の大星雲M42や馬頭星雲を作るIC434等と同じ星間雲の中でオリオン座の高温なOB星群によって電離発光しているHII領域であり、その星間雲の境界端を示している、という程度の理解でした。しかし近年この領域は、広い範囲にわたって詳しく調査研究が進んでおりその概念はだいぶ変わっていました。

現在では、バーナードループは41°×27° (380 × 220 pc)の大きな不規則な殻の東側の明るい部分に過ぎず、東西方向に15~23 km s-1で膨張していると考えられています (Reynolds & Ogden 1979)。この天体全体は「オリオン・エリダヌス座スーパーバブル」と呼ばれています。オリオン・エリダヌス座スーパーバブルの西側には、中性物質 (Hartmann & Burton 1997) に囲まれた電離フロント (Madsen et al. 2006) のイオン分布がよく描かれていることがわかります。(C. R. O’Dell 他 2011)

図1VTSS、SHASSA、WHAMのデータによる「オリオン・エリダヌス座スーパーバブル」のHα輝度分布図。破線は解析領域の輪郭を示す。左側の白いラベルは、オリオン座の主要なHα領域名を示しています。分析領域では、黒い輪郭は、主なH Iシェルを示しています。北縁 (N)、南ループ (S)、東縁 (E)、西縁 (W) です。左上の銀緯 b = -8◦ の線は、銀河系面の向きを示しています。

*Gas shells and magnetic fields in the Orion-Eridanus superbubble. T. Joubaud et al. A&A 631, A52 (2019) より転載
*Sh 2-245とアルデバランの位置を追記

オリオン座・エリダヌス座スーパーバブルは、高質量星形成が活発に行われている最も近い場所です。特に、これらの星が星間物質に与えるフィードバックを調べるために良く研究されています。超新星爆発や恒星風などによる強力な紫外線によって、幅200 pcの空洞が形成され、そこに低密度の電離ガスが充満し、星間物質へと膨張しています。当初存在した物質は掃き寄せられ、圧縮されて中性ガスの殻を形成し、その壁面付近は太陽から180 pcの距離にあると考えられています (Bally 2008)。電離したガスと中性の殻の境界は、電離した水素の再結合によってできるHα輝線に見ることができます。この領域で検出されたHα輝線を図1に示します。この図では、HII領域 λ Oriと、オリオンA・B分子雲に近い明るい三日月状のBarnard’s Loop、そして西側のEridanus Loopの円弧が描かれています。(T. Joubaud et al. A&A 631, A52 (2019) )

Hα輝線はスーパーバブルの外側の境界を決定するのに使われました。これまで、東側の境界はバーナードループと考えられていましたが、Ochsendorfら(2015)によって、図1の範囲よりもさらに外側の暗い領域にまで境界は遠くなりました。Ochsendorfらは、バーナードループの塵の殻は、オリオンOB1星群からのすべての電離フォトンを吸収するほど光学的に厚くないと主張しました。これらの光子は、ガス速度や銀河系面に近いかすかなHαフィラメントとして識別される、より遠くの壁まで漏れているとしました。
バーナードループは、超新星によって励起され、スーパーバブルの内部で膨張している可能性のある閉じたバブルの一部である。他のシェル(GS206-17+13、オリオン大星雲)とλ Oriの複雑な歴史(おそらく超新星残骸の空洞が、後にOB星群の周りのH II領域によって埋められた、Dolan & Mathieu 2002)は、Ochsendorfら(2015)が、単一の拡大天体の単純な構造から、蒸発する雲と異なる温度でX線を放つ高温ガスで満たされた入れ子シェルが視線に沿ってより複雑な組み合わせを形成する構造に変えるに至りました (Snowden et al. 1995).
指数関数的に成層する星間物質(ISM)の中を単一の衝撃波の前線が広がるモデルは、Hα線のデータによく合っておりオリオン座側がエリダヌス座側よりも近いとされています(Pon et al.2016)。しかし、このモデルはスーパーバブルの複合構造を考慮することができません。
(T. Joubaud et al. A&A 631, A52 (2019) )

大規模な膨張は6億年前に爆発した超新星に起因していると考えられます。この超新星爆発の残骸は、HIIバブルの幾何学的中心と一致するため、Barnardのループと見なすことができます。これは、H II バブルと、同じく古代の超新星が存在した領域であるλ Ori に関連する弾道的膨張と似ています。(KOUNKEL M. 2020ApJ…902..122K)

ということで、バーナードループはオリオン座・エリダヌス座スーパーバブルのごく一部であること、おそらく超新星爆発の残骸であること、スーパーバブルの境のはっきりしない西端は太陽系から遠くバーナードループのある東端は太陽系に近いこと、おうし座のSh 2-245はバブルの中のシェルの一部であろうこと、などが理解できました。

しかし、図1を見ると、北側のバブルはおうし座のアルデバランやSh 2-238, 239を飲み込むような位置にまでに広がっています。同じような距離にあり、重なっている「おうし座複合体」との関連はどうなっているのでしょうか? おうし座複合体の研究は、恒星の視差からメンバーを検出、オリオン座・エリダヌス座スーパーバブルは分光観測が中心、観測手段によって結果が異なることはよくあることなので、これから複数の観測手段を使って解明されていくのでしょう。

おまけOrion B = Sh 2-277(散光星雲)
タカハシFSQ85ED(320mm f3.8), Sony α7s(新改造)、フィルターなし, ISO12800, 30s x 59=30分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 2022/01/07 21h58m, -6.0℃, 東御市・観測所, ↑N

同時に撮影していたので、掲載します。こうやって見ると確かに複数の殻によって複雑に構成されているのかも知れない、と思えますね。

 

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