Sh 2-176(惑星状星雲・カシオペア座)とその中心星

Sh 2-176(惑星状星雲), 光度:– mag, 直径:10′, 分類:PN
BKP300(1500mm f5), MPCC-MK3, HEUIB-II, Sony α7s(新改造), ISO12800, 30s x 45=22分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 2019/11/01, 00h 22m, +6℃, 東御市・観測所 視野角:77′ x 51′ ↑N

Sh 2-176は、カシオペア座のα星近くにある惑星状星雲とされている淡い星雲です。誕生から長い時間が経過し拡散した惑星状星雲は、その形状と性質が超新星残骸と区別がつきにくく、惑星状星雲とされていたものが後に超新星残骸とされたもしくはその逆の)ことは珍しくありません。

Sh 2-176も1970年代初めには、反射星雲(Felli and Perinotto 1974)や超新星残骸(van den Bergh. 1973)の可能性が示唆されていましたが、1977年F .Sabbadin, S. Minello,  and A. Bianchini による直接分光観測から惑星状星雲であることが示されました。”Sharpless 176: a large, nearby planetary nebula.”, Astronomy and Astrophysics, Vol. 60, 147-149. [1977A&A….60..147S]

その手法はSh 2-176フィラメント部分を分光観測し、Hα/[NII]、6717/6731、Hα[SII]のスペクトル強度比を計測、既存のHII領域、惑星状星雲、超新星残骸のデータからSh 2-176のグラフ上の位置を割り出し判定するというものでした。下図は論文中のグラフの一部です。

これらのことから、Sh 2-176はその性質はHII領域とは明らかに異なり、超新星残骸に近いけれども惑星状星雲に分類されるというものでした。

この論文中ではこの星雲の中心星についての記述もあり、S 176の内部にあるブルーの11等の恒星(準矮星)が中心星で、V = 11.35 +- 0.05, B – V = 0.30 +- 0.05 と計測されたとされています。しかし、この恒星の位置についての詳細な記述はありません。

通常、拡散した惑星状星雲を撮像するとその中心星(白色矮星)は、青緑の特徴的な色で写るので、一見してその存在は判別できますが、撮像した画像には見当たりません。現在の準矮星に関する知見からは、準矮星が拡散した惑星状星雲を生むことは考えにくく、F. Sabbadin らの惑星状星雲説に少々疑問がわきました。

まずはF. Sabbadinらが中心星とした星を同定してみました。詳しい位置情報が記述されていないためSh 2-176内部の星で光度と色指数が近いものを抽出しました。結果、候補となる星は1個のみで、V = 11.35, B = 11.60の TYC 3662-2208-1 でした。

下記の同定写真を見てわかるように、TYC 3662-2208-1はSh 2-176の中心からは大きく外れた位置にあります。拡散した惑星状星雲の中心星がその中心付近にない例はありますが、これほど外れる例はあまりありません。恒星の固有運動量が大きく星雲中心から外れた可能性もありますが、この星の年間固有運動量は、RA +0.020 DEC -2.520 であり大きな値ではありません。これらのことから、TYC 3662-2208-1はSh 2-176の中心星である可能性は低いと思われます。

Sh 2-176 の中心星候補
当初、撮像した画像に白色矮星が見当たらないことから超新星残骸の可能性を疑いましたが、Sh 2-176の内部の星を抽出しているとWD 0029+571という白色矮星が存在していることがわかりました。その位置は上記写真のようにSh 2-176の中心付近にあります。おそらくこの星が本当の中心星でしょう。ただし、その光度はV=18.551等星と非常に暗く、そのためF. Sabbadinらの1970年代の写真観測では観測できない明るさだったのだろうと想像します。

*追記、F. Sabbadinの論文は古いものなので、中心星に関しては、おそらくどこかで誰かが発見して訂正されているだろうと探してみたところ、ありました。
Astrophys. J., 265, 249-257 (1983) 、A newly discovered nearby planetary nebula of old age.  WEINBERGER R., DENGEL J., HARTL H. and SABBADIN F. 1983ApJ…265..249W

この論文中のSh 2-176の項目に下記の記述がありました。
<私たちは中心にかすかに、非常に青い星を見つけることができました。これは、おそらく真の中心星です。その明るさ(mb = 18.1、mr = 18.6±0.5-1等)は、上記のドルシュナーが決定したマグニチュードと直径の関係を使用して導き出されました。>
1983年にはすでにWD 0029+571が真の中心星であろうことが指摘されていました。

シャープレスカタログについて調べる際の定番資料であり大変良くまとまっているSkymap.orgのSh 2-176の項目での参考文献はF. Sabbadinの論文のみで、中心星は青い準矮星となっていました。自分で撮像した画像の中に違和感を感じる物があるときは、様々な方向から探ってみると興味深い事実が出てくることもあるものです(大概は空振りですが)。

Sh 2-176(惑星状星雲), 光度:– mag, 直径:10′, 分類:PN
LBN 594(散光星雲?), 大きさ:2.0′ x 2.0′, 明るさ:6.0 , カラー:2.0, 分類:R + HII?
LBN 595 ?
LBN 599(散光星雲), 大きさ:60′ x 15′, 明るさ:6.0 , カラー:3.0, 分類:HII
LBN 605(散光星雲), 大きさ:180′ x 70′, 明るさ:6.0 , カラー:2.0, 分類: HII?
LBN 607(散光星雲), 大きさ:60′ x 30′, 明るさ:4.0 , カラー:2.0, 分類:HII?
タカハシFSQ85ED(320mm f3.8), Pentax K-70(改造)、HEUIB-II, ISO3200, 90s x 16= 24分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 22019/11/01, 00h 22m, +6℃, 東御市・観測所
視野角:4.2° x 2.8° ↑N(広角カメラ)

Sh 2-176の周囲には淡いHII領域であろう散光星雲がその東側に広がっています。西側にはさらに淡い(反射)分子雲が広がっているように見えます。

LBN 594は、画像からは青い反射星雲と赤いHII領域が混在した小領域のようです。LBN 595は、それらしい物が見つかりません。

カシオペア座 南部、 ファインディングチャート
Tamron SP 70-200mm(80mm f8), Pentax K5IIS(ノーマル), ISO3200, 90s x 16=24分, TS-NJP, TemmaPC, α-SGRIII, 2019/11/01, +6℃, 東御市・観測所 ↑N

 

 

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