天体用・低分散スリット分光器を自作する

天体望遠鏡に接続して使う低分散の分光器を作りました。(愛光者7号と命名)
数年前スリットレスで使う分光フィルター、STAR ANALISER SA100を購入して超新星のスペクトルや流星スペクトル用に使ってみました。が、興味の向いていた彗星や星雲などの面光源の天体には使えないため、あまり使い込まないうちにお蔵入りしてしまいました。

スリット式分光器にすれば良いのですが、市販の分光器はどれも大きく価格も高く(30万円〜)小さな望遠鏡に取りつけて気軽に使えるものはありません。そこで、なるべく市販の部材を流用してできるだけ小型軽量になるよう自作してみることにしました。

コリメータレンズは望遠鏡のアイピース、グレーティングは透過型のSA100を使えば小型化できそうです。それに適した光学系を探してみました。等倍拡大撮影方式では結像レンズを省略できるのでよさそうでしたが、光路が長くなる、集光する光路の途中に分散素子を置かなければならないなどでボツ。結局オーソドックスなコリメート方式の光学系を採用しました。


分光器本体部分の概念断面図
Tリング(42mm P0.75)規格の延長筒やアクセサリーは手に入りやすいのでT規格の延長筒をベースにコリメータレンズ(アイピース)、スリット、グレーティングを組み込むよう配置しました。(図中の回転装置はグレーティング、フィルターボックスの前に取り付けるのが正解です、訂正します。)

*左:グレーティングはSA100では分散が足りないので、パットン社のSA200を購入しました。ポンドがだいぶ安くなっているので今はお買い得です。
*右:薄型のフィルターボックスにグレーティングを入れて、簡単に取り外しできるようにしておきます。0次光がはっきりしない対象を確認導入する時に便利です。フィルターボックスの前にあるT規格薄型回転装置スリットと分散方向が直角になるよう調整する時に使用します。
 
*スリット:スリットは自作して31.7mmのフィルター枠に入れました。
*0.3ミリ厚のアルミ板を円形に切り出したものを、さらに真っ二つに切ります。
切断面がなめらかになるように研磨します。400番ぐらいのヤスリから始めて、順次800番、1200番と番手を上げて行きます。切断面が△に近い形になるよう、2つの板を合わせた時にまったく隙間ができないように修正しながら研磨します。
*研磨した2枚の半円形アルミ板をフィルター枠にセットして、かしめリングで軽く止めます。2枚の板の隙間に目標のスリットサイズに近い厚さのポリ袋片を挟みます。板がポリ袋片を挟んだ状態でぴったり隙間なく合わさるように針先などで動かして調整し、かしめリングを絞めます。
*最も薄いレジ袋は厚さ0.02mm=20μmなのでこれを重ねて目標の厚さに合わせて使うと便利です。
*スケール入り顕微鏡でスリットの幅を確認します。
*この方法で40μmのスリットを作ることができました。
*80μ+200μの2段式スリットを作成して試験中。
コリメータレンズ:おまけでもらった無名PL40mmレンズを流用しました。レンズがT延長筒の中に収まるように外形の近いアルミパイプを削ってスペーサーとして組み込みました。アルミのパイプを少量でも好きなサイズで切り売りしてくれるネットショップが便利でした。

 

撮像試験
恒星のスペクトル(ベガ)


Celestron Nexstar 6SE + Meade f5 reduser (825mm f5.5), Sony a7s(改造)、自作分光器(愛光者7号)、ISO12800, 5s x 6, 2017/11/11  神奈川県大和市・自宅ベランダ

自宅で、撮像したので光害(蛍光灯)の水銀輝線が強烈。スリットと分散方向を直角に調整するのを忘れてスペクトルが曲がってしまってます。スペクトルに幅をつけるため、ピントをぼかして撮像してます。

惑星状星雲のスペクトル NGC7662(青い雪玉星雲)

BKP300(1500mm f5), Sony a7s(改造)、自作分光器(愛光者7号)、ISO25600, 30s x 12, 2017/11/19  長野県東御市・観測所

明るい惑星状星雲だと上手く分散してくれます(スリット幅40μm)。惑星状星雲の色の違いは、青い惑星状星雲はHβとHeの輝線(青)が強く、赤い惑星状星雲はHαが強いためということが一目瞭然でわかります。NGC7662星雲の色はHe II の強い青輝線があるために全体的に青ぽっく見える(写る)ということがわかりました。

これを、分析ソフトR-specにかけてみると波長別の強度がグラフ化されます。カメラの分光感度特性を補正してやれば、それぞれの輝線の相対的な強度を算出することも可能です。

恒星や、惑星状星雲では使えそうなことがわかりました。しかし、彗星や散光星雲では向けてはみたものの、まずスリットへの導入が大変困難。たとえ、入れられてもまったく感度不足で真っ暗な画像が撮れただけという状態でした。

現在、複数のスリット幅を持つスリットプレート作成、大きな導入スリット、フィルターホイールでスリット交換、などの改良対策を実験中です。

参考サイト:
日本 菅原氏のブログサイト、反射グレーティングを使用した本格的な分光器の製作、撮像後の整約処理、など、必読、ベテラン彗星観測者のサイトです。 https://dustycomet1234.wordpress.com/

英国 Robinさんによる、透過グレーティングSA100, SA200を使用した様々な試みがあり、初心者にもわかりやすく参考になります。http://www.threehillsobservatory.co.uk/astro/astro.htm

フランス Christian Buil氏 分光器に関してはこの方を避けては通れないでしょう。主なタイプの分光器が網羅されています。自作するための基礎的なデータもたくさん。http://astrosurf.com/buil/spectrographs.htm

 

 

 

 

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